石井大智 編著、清義明 著、安田峰俊 著、藤倉善郎 著 の2ちゃん化する世界: 匿名掲示板文化と社会運動 をよみました。
私は1970年生まれ、今54歳の男性です。2ちゃんねるは自分が30歳近くからあるので、影響をある程度受けた世代です。この本で書かれたこともリアルタイムでわかるところもあれば、全く分からない話も多くありました。
フリーチベットはテレビ報道で北京オリンピックの聖火ランナーのことでもめていたことはなんとなく覚えていましたが、詳細についてはこの本について知りました。
香港が中国に組み入れられたときに利用された匿名掲示板のLIHKGについても初めて知りました。
2章に書かれている2ちゃんねる乗っ取り事件については当時いろいろしらべて #偽2ch騒動 について調べてみました。 その1 を書きました。いろいろ当時のことを思い出しながら読めて楽しかったです。
構成について
- まえがき
- 第1章 フリーチベット運動とネトウヨの誕生
2ちゃんねるの政治化の分水嶺 安田蜂俊+藤倉著部+清義明+石井大習 - 第2章 海賊たちのユートピア
西村博之と匿名掲示板のカリフォルニアン·イデオロギー 清義明 - 第3章 「日本解放第二期工作要綱」を解剖する
2ちゃんねるが育んだ陰謀論 安田峰俊 - 第4章 Jアノンと路上デモ
日本の宗教団体とQアノン的陰謀論の歪みと交錯 藤倉善郎 - 第5章 LIHKGとは何か
匿名掲示板と香港デモ 石井大智
この本は4名の方によって書かれた本です。藤倉さんは統一教会問題で一躍有名になった鈴木エイトさんとカルト問題を昔から追及された方です。清さんは結構前からX (旧 Twitter)でフォローしていました。この2人については知っていましたが、石井大智さん、安田峰俊さんについては本書で初めて知りました。
それぞれの章では大きなつながりはなく、章ごとに独立しているので好きなところから読んで問題がないです。
第1章 フリーチベット運動とネトウヨの誕生 について
この章は4人の対談形式になっています。それぞれの立場で解説されています。複数人による補完もあり、当時の雰囲気を想像しながら読むことができました。この後の章ではこの対談の一人ずつの参加者が1章ずつ書いているので、この章を一番初めに読むのがいいかもしれません。
第2章 海賊たちのユートピア について
昔、2ちゃんねる乗っ取り事件があった時に#偽2ch騒動 について調べてみました。 その1 を書きました。書いた当時にはわからなかったことも裁判などを通して書いてあるので非常に参考になりました。
私も指摘した通り自分でも責任から逃げるためか2ちゃんねるを譲渡したと主張していたことから 裁判では ひろゆき の権利を取り戻す主張は認められなかったとのことです。
西村は権利を取り戻すために訴訟をおこした。この裁判の陳述で、西村はまったく臆面もなく 「2ちゃんねるを譲渡したことはない」と言い切っている。はじめてこの裁判記録を見たとき、私は絶句した。著書のみならず至るところで西村が発言していた「2ちゃんねるを譲渡した」という今までの発言はなんだったのか。
2ちゃんねるのビジネスを失うことになって、ついに背に腹は代えられなくなったのである。なお、この「2ちゃんねるを譲渡した」「そもそも2ちゃんねるの運営にはもう関わっていない」と 書かれた西村の「著書」である「僕が2ちゃんねるを捨てた理由」は同裁判でジム・ワトキンス側 からの要請で証拠採用されている。
裁判で ジムが主張したのは、もともと西村は2ちゃんねるでは単なる広告塔であって、実質的な 管理運営はジム側が行っていたということだ。実際、そう西村は至るところで発言していたのだか ら、なんともはやである。
2019年に東京高等裁判所でジムの主張は認められ、続いて同年11月に最高裁判所がこの判決 を支持して上告を棄却。2016年にドメインの所有権もジムの会社にあることが認められており、 これで西村は法的に2ちゃんねるを完全に失った。
P.65-66 から引用
この章ではよく知られている2ちゃんねる乗っ取り事件はもちろん、当時米国に留学中のひろゆきが2ちゃんねるを開設する前に参考にしたであろう米国におけるWeb周りの情勢説明から、ヒッピーとヤッピーから生み出されたといわれるカリフォルニアン·イデオロギーなどの社会状況の説明があります。誹謗中傷の書き込みを削除しなかったりする理由も米国文化に影響されたものであれば2ちゃんねるは純粋な日本の掲示板とも言えないと思いました。
ひろゆきが4chanの管理者になったあと、2ちゃんねるの関係者がその4chanを利用した陰謀論からQアノンが生まれ様々な事件を起こしながら2021年の連邦議事堂襲撃事件を起こします。これは日本生まれの掲示板文化が世界に影響を与えたのかと思っていましたが、ひろゆきがいなくても誰かが匿名掲示板を作成しQアノンのような現象が発生していたのかもしれません。
この章では多くの文献を引用し様々な考察があるのですが、一度読んだだけではなかなか消化しきれないと思います。
清さんの2ちゃんねるに対する言及はいろいろなメディアに書かれています。
清さんの存在を知ったのは山本一郎さんについて書いていて、私が自分のブログで引用したからです。
第3章 「日本解放第二期工作要綱」を解剖する について
この章ではかなり昔に書かれた書類がかなりたってからスポットライトがあたり、その書の中身を確認せずに、無責任に多くの人が拡散したことについて解説しています。2024年のWikipedia を確認したら偽書である可能性が高いように説明されています。
昭和47年(1972年)8月5日付け18458号の國民新聞(国民新聞社)で掲載されたものが初出で、同紙によれば、歴史家の西内雅が1972年7月にアジア諸国を歴訪した際に、毛沢東の指令や発想を専門的に分析している組織から入手したものであると報じられている文書中に「田中内閣」という単語が登場するため、文章が書かれたのは田中角栄が自民党総裁に当選した1972年7月6日以降であると考えられる。一方、安田峰俊は、文章の内容や公開の経緯には不自然な点が多く、偽書だとしている。
その後2000年代に日本での中国に対する感情が悪化した時期に電子掲示板サイト「2ちゃんねる」などを通して少しずつ広まるようになり、前述の安田峰俊は2016年頃からネット右翼向けのフェイクニュースを数多く扱うまとめサイトで大きく扱われるようになったと述べている。一方、保守論客の講演や著書の中でまま言及されることがある。
ちなみに小池百合子現都知事も昔このような文書を書いています。
archive.org から KOIKE Yuriko *メールマガジン* 2009/09/21 No.046 小池百合子のメールマガジン『 e-コムネット 』
民主党の小沢幹事長が、「外国人地方参政権」の成立に意欲を見せている。
国家や領土などへの基本的意識が希薄な日本では、
この制度の安易な導入は極めて不適切、危険といわざるをえない。そもそも現代の日本人の国家意識がなぜ希薄なのか。
昭和47年に明らかになった中国共産党による秘密文書なるものがある。
1.基本戦略:我が党は日本解放の当面の基本戦略は、
日本が現在保有している国力の全てを、我が党の支配下に置き、
我が党の世界解放戦に奉仕せしめることにある。
2.解放工作組の任務:日本の平和解放は、下の3段階を経て達成する。
1国交正常化(第1期工作の目標)=田中角栄
2民主連合政府の形成(第二期工作の目標)=小沢一郎
3日本人民民主共和国の樹立・天皇を戦犯の首魁として処刑(第三期工作の目標)つまり、民主党による政権交代で
2の民主連合政府の形成という目標が達成されたことになる。
韓国も、この戦略に呼応した対日工作に便乗すれば、独自の地位確保が可能となる。一方で、安岡正篤が主張したGHQの日本占領政策の基本政策はこうだ。
1.基本原則「3R」(復讐、改組、復活)
2.重点施策「5D」(武装解除、軍国主義排除、工業生産力破壊、中心勢力解体、民主化)
3.補助政策「3S」:(SEX、SPORT、SCREEN=日本弱体化)安岡によると、この日本骨抜き政策を、日本人自身がむしろ喜び、迎合したという。
その代表は日教組など悪質な労働組合であり、
結果として言論機関の頽廃を招いたという。国家戦略局を目玉とする民主党だが、「対霞が関」だけの戦略を練るようでは、
市民オンブズマンの域を出ない。
単に日本弱体化を進め、対日工作を促進する国々の下請け機関だ。
「友愛」精神だけでは、権謀術数渦巻く世界政治での生き残りは厳しい。
イチローのアシストで鳩が決めたシュートは、実はオウンゴール。
歓喜の声とともに、スタンドで打ち振られる旗が、
日の丸を切り裂いた民主党旗では、あまりに情けない。衆議院議員 小池百合子
大臣を経験した議員がこのように言及したのは、やはり問題だったのではないかと考えさせられれます。
最近はこの文章に言及されることはほぼなくなったが、当時はこの情報を書くことで多くのアクセスを見込めると積極的に言及していたまとめサイトも少なくなかったのではないかと指摘されています。当時の安倍総理もまとめサイトをフェイスブックで紹介したこともあるようです。(その後削除したとのこと)
怪しげなサイトを総理大臣が紹介するのはとても怖いと思います。
X (旧 Twitter) 安田峰俊 さんのアカウント
第4章 Jアノンと路上デモ について
やや日刊カルト新聞 を運営し新興宗教に詳しい藤倉善郎さんが書いています。この章ではアメリカで生まれたQアノンが日本でも同様の主張をしているJアノンと呼ばれる人たちがいることを紹介しています。
Jアノンは藤倉さんが観察している統一教会や幸福の科学の関係者も参加しているようで、その様子が書かれています。藤倉さんのキャラクターがそうさせていると思うのですが、本書の中で一番コミカルでついつい笑っちゃうシーンがあります。
統一教会と幸福の科学はお互い仲良くなれない歴史がありますが、Jアノンになると協力したりすることもあるとのこと。
新興宗教にのめりこむ人は陰謀論にはまりやすい人も多いのか、ある陰謀論があると子細なことは気にせずに協力し合えるものなのかなと思いました。選挙で宗教団体の協力が必要になるのはそういった気質によるものなんだろうと思いました。
- X (旧ツイッター) 藤倉善郎 さんのアカウント
- フジクラム youtube
第5章 LIHKGとは何か について
LIHKGは今でも運営されている掲示板です。
中国語は理解できないのですが、いまでも匿名掲示板として機能しているようです。
この章では匿名掲示板が香港のデモにどのように役割を果たしたのか考察しています。本章では人気がある匿名掲示板は、実態以上に過大評価されていると指摘していました。
2ちゃんねるでは、一時期マーケティングに使えると称して商売をしていた会社があったと思いますが、今思えば過大評価されていたのでないかと思いました。
最後に思ったこと
多分私の年代のプラスマイナス10歳ぐらいの世代(1960-1980年生まれ)が2ちゃんねるの影響を受けていると思います。
2024年の今思うのは、2000年代のころは過大評価されていたのかな?と思います。2ちゃんねるとひろゆきの歴史をみていると、よくよく考えてなにかしていたというよりは、できるだけ責任を負わないようにしながら、できるだけ簡単に何かをすましていた結果、2ちゃんねるをひろゆきは取り上げられたというのが本当のところではないかと思います。
また、そのあとのQアノン騒動も、手間をかけないことで結果的にあのような流れを作ったのかなと思います。
そういう意味ではひろゆきは過大評価を今でもされていると思います。
一方、言論の自由を盾に陰謀論や誹謗中傷の書き込みの制限をしないと、世の中は不安定になるのでないかと思います。
また、どの時代でも匿名性による無責任な言論は多くの人に関心を持たれるので、ひろゆきと2ちゃんねるがなくても、それに代わる同じようなものが出てくるのでないかと思いました。
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